grundlegende Informationen
発 行(制作)地:ベルリン(Adolph Weyl、ロンドン市場向け私家版)
年号表示:無日付(1887年に帰属)
額 面:ペニー(パターン)/ユニフェイス表面打ち
品 位:金(Au)
重 量:約10.40–10.43 g(NGCラベル 10.40 g)
直 径:約30 mm
エッジ:ミルド
鑑 定:NGC PF64 Ultra Cameo(Top Pop/Only One Certified)[Cert. 8537535-011]
文 献:W&R 394 var./Pearce BNJ 2011, p.192 Appendix 1 coin 2(Freeman・Peck・ESC未収載)
来 歴:Murdoch → Evan Roberts → Thorburn Collection
イギリス|金ペニー(ユニフェイス・パターン)|Weyl向け試作・ミルドエッジ・ラテン銘|1887年(年銘なし・同年設計)|NGC PF64 Ultra Cameo|Top Pop(唯一登録)

イギリス|金ペニー(ユニフェイス・パターン)|Weyl向け試作・ミルドエッジ・ラテン銘|1887年(年銘なし・同年設計)|NGC PF64 Ultra Cameo|Top Pop(唯一登録)
NGC PF64 Ultra Cameo。NGC登録上、現在も“Only One Certified”=唯一登録個体にして最上位(Top Pop)。
ベルリンの彫刻家アドルフ・ヴァイル(Adolph Weyl)による、1887年ジュビリー期の金製ユニフェイス・ペニー(表面のみ意匠、裏面無刻)です。ペニー規格に合わせて打刻された実験的試作で、ヴァイルがロンドン市場向けに展開した一連の“Weylパターン”群の中でも、最も異色で抽象的な設計試験片とされています。
PUNKT.
アドルフ・ヴァイル(Adolph Weyl, 1837–1889)は、ベルリンを拠点に活動したドイツの彫刻家・メダリスト。
国家造幣局に属さない独立した民間作家として、各国向けに貨幣やメダルの意匠試作を手掛けた先駆的存在です。
1860年代からロンドン市場にも進出し、ヴィクトリア朝期の造幣刷新に合わせて独自の試作貨を制作。
1887年のジュビリー期には、金・銀・銅など多様な金属で「Weylパターン」と呼ばれる一連の試作品を打刻し、英国と大陸ヨーロッパの造幣技術・芸術観を融合させました。
その中でも本金製ユニフェイス・ペニーは、肖像造形の研究を目的とした最終段階の試作とされ、ヴァイルの美学と技術を象徴する唯一無二の成果です。
主要カタログ(W&R/Freeman/Peck)では型番・図版とも未収録。
唯一の学術的記録は、R. J. Pearce “A Study of the ‘Weyl’ Pattern Pennies, Halfpennies and Farthings Dated 1860 and 1887”
(British Numismatic Journal, 2011, Appendix 1, coin 2)に収載された項目で、製作目的を「肖像検証用のユニフェイス試作」と明確に位置づけています。
来歴は John G. Murdoch Collection(Sotheby’s, 1904年3月15日, lot 539 part) に始まり、
Evan Roberts Collection(Plymouth Auction Rooms, 2008年4月18日, lot 40) を経て、後年 Thorburn Collection に収蔵。
この3名はいずれも英国貨幣学の系譜に連なる名コレクターであり、出所の確実さは比類がありません。
Oberfläche (Vorderseite).
表面には、ヴァイル独自のジュビリー様式肖像が左向きで刻まれています。
冠のアーチには左右それぞれ七粒ずつの真珠が配され、頂部の十字は外周ビーディングに届かず、やや低く抑えられた構図。
ヴェールの縁は細かい鋸歯状(クレネレーション)を伴い、折り返し部は滑らかに流れ、胸元のリボンやレースも細密に彫り分けられています。
特徴的なのは、胸元に“ガーター星章”を欠く点で、これは肖像そのものの造形検証を目的とした試作であることを示唆します。
女王像の顔立ちはベーム作ジュビリー・ヘッドよりもやや引き締まり、首筋のラインと下顎のカーブが強調され、ヴァイルらしい彫刻的量感を帯びています。
右目の外縁付近には極小のダイフロー(涙滴状)が確認され、文献(Pearce, 2011)で言及される特徴と一致。
レジェンドは「VICTORIA D: G: BRITT: REGINA F: D:」の略体で、外周ビーディングは均整を保ち、打刻も明確。
フィールドは深い鏡面仕上げで、強いフロスト像が劇的なコントラストを生みます。
PF64 Ultra Cameoらしい精緻なミラー反射とフロストの立ち上がりが完璧に調和し、彫刻的ディテールを最大限に引き出しています。
Rückwärtsgang (Rückwärtsgang)
裏面は完全無刻。
外周のビーディングのみが施され、意匠面を持たない“ユニフェイス”構造です。
この非装飾的な構成は、表面の打圧や金属流動を純粋に観察するための設計試験であり、貨幣としての造形よりも技術的・工学的な研究試作の性格が強いと考えられます。
PUNKT.
ユニフェイス(Uniface)とは、片面のみに意匠を打ち、もう一方は無刻のまま仕上げた試作形式Ist.
通常の貨幣が両面にデザインをもつのに対し、ユニフェイスは主に肖像や打刻圧の検証、仕上げ研究のために作られました。
1887年のアドルフ・ヴァイル金製ペニーはその典型で、表面の女王肖像のみを打ち出し、裏面は外周のビーディング以外すべて無刻。
貨幣というよりも造幣技術と造形美の“実験試作”であり、ヴィクトリア期の造幣芸術の到達点を示す構造です。
エッジはミルド(リーディッド)。
円周の一部には、微細な数字や記号が肉眼でも読み取れる程度に刻まれており、同時期のWeyl試作群に共通する“製造時の作業符号”とみなされています。
Pearce(2011)はこれを質草印ではなく、製造パラメータ(打圧・コスト・順序)を記した符号である可能性を指摘しています。
歴史的背景
1887年はヴィクトリア女王の即位50周年(ゴールデン・ジュビリー)にあたり、王立造幣局の公式新肖像導入と並行して、民間でも多くの試作が行われました。アドルフ・ヴァイルはベルリンを拠点とする彫刻家で、1860年代からロンドン市場向けに独自の貨幣意匠を提案しており、いわば「ドイツ人による英国コインのデザイン輸出」を試みた先駆者です。
彼の“Weylパターン”群は、1887年シリーズ(ペニー、ハーフペニー、ファージング)を中心に構成されますが、本金製ユニフェイス・タイプはそのどれにも該当せず、実験段階の肖像試験とみなされています。
つまり本コインは、彼の創作過程の最終点に位置する「肖像造形そのものを検証するための純粋試作」であり、造幣史上の美術的ドキュメントとしても貴重な資料です。
市場評価と希少性
NGCによる評価は PF64 Ultra Cameo。
現在も 唯一登録(Only One Certified)=Top Pop(最高位) として記録されており、統計上の同型他例は存在しません。
主要カタログに記載がないため「R評価(R4・R5)」のような形式的分類は付されていませんが、
学術的には“実質R7=Unique(唯一)”の位置づけが妥当です。
保存状態は極めて優れ、金特有の柔らかな鏡面反射とフロストの立ち上がりが調和する、視覚的完成度の高い一枚。
金製ユニフェイス試作という構成自体が例を見ないうえ、百年以上にわたりMurdoch、Roberts、Thorburnの各名コレクターによって継承された由緒正しいトレーサビリティを備えています。
Thorburn Collection は、ジュビリー期のSpinkパターンおよびWeyl試作群を体系的に蒐集したことで知られ、同コレクションから出たパターンは後世の研究基準となっています。
その中核に位置する本品は、コレクターズアイテムとしても資料的価値としても、比類なき存在です。
その構造は意匠よりも理念を重んじ、肖像・素材・光の相互作用を検証する“彫刻的実験”として結晶しています。
NGC PF64 Ultra Cameo、唯一登録=Top Pop という到達点が示す通り、これは単なる試作品ではなく、
ヴィクトリア期の工芸精神を極限まで抽象化した“唯一無二の金の肖像研究”です。

Um eine Bewertung abzugeben, müssen Sie ein registriertes Mitglied sein.