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【R2】1848年 ヴィクトリア女王 シルバー・パターン・フローリン Royal Cypher Pattern NGC PF66(Top Pop)

【R2】1848年 ヴィクトリア女王 シルバー・パターン・フローリン Royal Cypher Pattern NGC PF66(Top Pop)

【R2】1848年 ヴィクトリア女王 シルバー・パターン・フローリン Royal Cypher Pattern NGC PF66(Top Pop)

informations de base
発行国:イギリス
年 号:1848年
額 面:フローリン(2シリング)
分 類:シルバー・パターン(Royal Cypher Pattern)
参考番号:ESC-2925(R2)、Bull 2934
鑑 定:NGC PF66
鑑定番号:3350103-020
材 質:銀
直 径:約27.5 mm
来 歴:Ex Heritage Auctions(2012 May, Sale 3019, Lot 24733)
備 考 NGCポップレポート:PF66は確認されている範囲で2枚のみ(Top Pop)

1848年に試作されたシルバー・パターンのフローリンであり、ヴィクトリア朝前期の通貨制度改革がもっとも活発に模索されていた時期に属する作品である。ESCにおいて R2 の稀少度が付されるように、本タイプ自体の現存数は多くなく、1848年前後の思想的・制度的転換を伝える資料としても位置づけられる。

本コインは、王権を直接的に強調せず、Royal Cypher を裏面の中心に据える独自の構成を採り、19世紀半ばの造幣局が、貨幣を単なる価値標識からより広い国家理念の表象へと結びつけようとした試行の一端を静かに示している。王権の象徴をどのように再構成し得るかという思索が造形の中に穏やかに沈み込み、瑞々しい線刻と抑制された装飾性が自然な均衡を保つことで、後年のゴシック様式へと連なる美意識の前段階をほのかに感じさせる。

鑑定の面では、NGCで PF66 がわずかに登録されるのみで、これより上位の等級は確認されていない。PF66が事実上の最高鑑定帯(Top Pop)を形成しており、本コインはその上位群に属する一枚である。試作貨特有の緊張感を帯びた打刻はよく保たれ、線刻や地肌の静かな質感が当時の仕上がりを良好に伝えている。希少度 R2 の型式において、意匠・歴史的背景・保存状態が均衡して高い水準で揃う個体は多くなく、1848年パターン・フローリンの体系の中でも明瞭な存在感を備えた一枚といえるだろう。

Surface (avers).

クラウンを戴かない若いヴィクトリア女王の肖像が、穏やかな陰影の中に静かに浮かび上がる。
月桂冠風の意匠と結い上げた髪の細部には古典古代への参照が宿り、王権を過度に誇示するのではなく、節度と理性を備えた統治者像を示そうとする19世紀的意図が読み取れる。輪郭線は柔らかく、線刻は均質で、英国新古典主義が好んだ清澄な品格が全体を穏やかに支配している。

VICTORIA の冒頭の V は、古代ローマ碑文を思わせるローマン体の大文字として刻まれており、その直線的な骨格と内側に生まれる余白の均衡が、女王の理性的な肖像と静かに呼応している。19世紀英国の貨幣では、この種の古典的レタリングが王名の碑文に広く用いられ、統治の継続性や古代以来の伝統を感じさせるものとして解釈されてきた。本コインの V も、そうした文脈の中に置いて見ることができる。

REGINA は「女王」を意味するラテン語であり、単なる称号という以上に、英語の Queen には置き換えがたい儀礼的・歴史的な響きをもつ語として扱われてきた。ヴィクトリア朝前期の貨幣では、ラテン語の使用が王権の連続性や文化的威信をほのかに示すものとして読まれることが多く、REGINA という語は君主の地位を静かに支える層として働いていると捉えることができる。書体は過剰な装飾を避けた端正なローマン体で、直線と曲線が落ち着いた均衡を保ち、肖像の清澄な造形と自然に調和している。

下部の 1848 の年号は、簡潔な構成によって表面全体の視覚的な安定を支える役割を担っている。数字のリズムは碑文とは異なる静かな重心を形成し、上部の王名と下部の年号が肖像を上下からそっと支えることで、全体に穏やかな均衡が生まれている。

本コインのオブバースは、王権の象徴性を抑制し、古典性・理性・清澄さを基調とした造形理念を体現しており、装飾要素が多層的に展開する裏面を穏やかに受け止める静かな中心として機能している。

Inverse (inverse)

裏面の中心には、ヴィクトリア女王の頭文字を組み合わせた Royal Cypher「VR」が静かに置かれている。
直線と柔らかな曲線が交差するこのモノグラムは、肖像とは異なるかたちで王権を示す記号的な表現として読むことができ、19世紀英国が模索した象徴性の新しい方向をほのかに感じさせる。線の均衡は抑制的で、過度な装飾を避けながらも、中心としての静かな存在感を保っている。

Cypher を取り巻いて配置されたバラ、アザミ、シャムロックは、それぞれイングランド・スコットランド・アイルランドを象徴する植物である。写実性を抑えた線刻によって構成され、装飾性と象徴性が競い合うのではなく、柔らかく共存するようにまとめられている。三つの植物が等しい比重で扱われる構図は、当時の英国で共有されていた統合的な象徴性を背景に読み取ることもできる。

四区画構成は、古典文様と中世紋章の双方に通じる秩序を帯びており、対称性と静かな回転性がコイン全体の落ち着いた均衡に寄与している。区画線は控えめで、装飾を伴わないその簡潔さゆえに、中央の Cypher が視覚的中心として自然に浮かび上がる。

記号・植物・幾何の三層が重なり合うこの裏面は、王権をどのように記号化しうるかをめぐる19世紀の造形的関心を示す一例として興味深く、後年のゴシック様式の装飾的精緻さにも静かにつながる要素を内包している。
全体として、中央の Cypher に静かな核が置かれ、その周囲を植物文様が穏やかに支える構造により、1848年パターン貨らしい緊張と静謐の均衡が成立している。

歴史的背景

19世紀半ばのイギリスでは、通貨体系の十進化が継続的な議論の対象となっており、ポンド・シリング・ペニーという従来の構造をどこまで整理し得るかが、政策面・実務面の双方で検討されていた。フローリン(2シリング)は、その中で1/10ポンドに相当する単位として構想され、制度試行の核となった額面である。

1840年代には、貨幣の単位だけでなく、そのデザインや碑文の在り方についても見直しが進み、造幣局は複数のパターン貨を通じて、新しい価値体系と視覚表現の組み合わせを探っていった。1848年という年は、その試行錯誤が具体的な形として現れ始めた段階にあたり、翌1849年のフローリン正式導入へと連なる前夜の時期としても位置づけられることが多い。

本コインは、そのような過渡期に生まれた試作貨の一例であり、王の肖像だけに頼らず、Royal Cypher や植物文様といった要素を通じて王権と国家をどのように表象し得るかを探る姿勢がうかがえる。貨幣が単なる決済手段にとどまらず、国家の秩序や統治理念を静かに映し出す媒体へと変わりつつあった時代の空気が、その造形の奥に穏やかに沈んでいる。

デザインと象徴性

本コインの魅力は、装飾的でありながら過度な象徴性に傾くことなく、王権と国家を慎ましいかたちで記号化しようとする設計思想にある。Royal Cypher という文字記号を裏面の中心に据える構造は、表面の肖像と役割を分け、統治者の存在を抽象的に示す層を貨幣のもう一方の面に置くという、当時としては新しい試みである。植物文様による三王国の象徴も写実に寄りすぎず、記号としての均質さを保ちながら配置されており、象徴性と装飾性がせめぎ合うのではなく、静かに共存するよう調和されている。

こうした造形態度には、19世紀英国貨幣彫刻を支えたワイオン一門の語法との連続性が見いだされる。ウィリアム・ワイオンが確立した古典主義的な輪郭線の明晰さや、象徴を抑制的に扱う均衡感は、息子のレナード・チャールズ・ワイオンへ受け継がれ、1840年代後半の試作貨にも広く影響を及ぼしたと考えられている。Royal Cypher を中心に置き、植物文様を象徴として整える本コインの構成は、この流れとよく響き合い、記号・植物・幾何の三層を穏やかに結び合わせる英国的な彫刻観をうかがわせる。

全体として、本コインは王権の提示方法を肖像だけに依存させず、記号へと分岐させることで、象徴をどのように再構成しうるかを探った試作段階の思考を静かに宿している。過度な主張を避け、造形の抑制と象徴の整理を通じて、後年のゴシック様式へと連なる美意識の前段階をほのかに示す点も、本パターンが持つ独自の魅力といえる。

市場評価

Royal Cypher Pattern は、これまでの記録を見るかぎり、市場に姿を現す機会が少なく、近年の国際オークションでも出品例はごく限られている。特に高鑑定品の供給は乏しく、PF66はNGCにおいてわずか2枚のみが登録されているにすぎない。そのため、本コインのような等級の個体が実際に市場に出る機会は、多くのコレクターにとって決して身近なものではない。

一方で、イギリス近代の試作貨全般に対する関心は、ヴィクトリア期のデザイン史や通貨制度の研究が進むにつれて、緩やかに高まってきた分野でもある。とりわけフローリンを中心としたコレクションでは、正式流通貨だけでなく、その前段階にあたるパターン貨を軸に据えようとする動きも見られ、本コインのように意匠と保存状態の両面で水準の高い個体は、長期的な収集対象として静かな支持を集めている。

市場評価は短期的な相場変動だけではとらえにくいが、実物の造形的な完成度と、1848年前後の制度・美術史的文脈における位置づけが、このタイプのコインに対する関心を安定して支えているといってよいだろう。

希少性

ESC-2925 には稀少度 R2 が付されており、このタイプ自体がもともと限られた枚数しか残存していないことが示されている。近年の国際オークション記録を見ても出品例は決して多くなく、主要な場に登場する頻度はおおむね低位にとどまっている。

NGCへの登録も、ごく一般的な流通貨と比べれば枚数は多くはなく、その中で PF66 は上位帯に属する限られたグレードとなっている。公表されている範囲では、これより上位の等級は確認されておらず、PF66が実質的に最高鑑定帯を形成していると見てよい。本コインはその最高鑑定群に含まれる一枚であり、試作貨としての性格を保ったまま、きわめて良好な保存状態で現存している。

型そのものの希少性に、高意匠と高鑑定が重なっている例は多くなく、1848年パターン・フローリンを系統的に集成しようとするコレクションにおいても、軸となりうる位置づけを与えられる一枚といえるだろう。

鑑定・保存状態

NGC PF66は、試作貨にしばしば見られる端正なフロストとミラーの均衡がよく保たれ、面全体にほのかな透明感と奥行きが感じられる。表面には繊細な銀灰色の地色の上に、ごく淡い金色の虹彩が重なり、時間の経過とともに自然に形成されたとみられる穏やかなトーンを呈している。人工的な処理を示唆する不自然な光沢や色調は認められず、静かな経年変化に伴う品位の高さが際立っている。

打刻は深く、Royal Cypher の線刻は細部まで明瞭に残り、バラ・アザミ・シャムロックの植物文様にも鮮度の高い陰影が宿っている。パターン貨では、試作段階ゆえに打ち疲れや局所的摩耗が生じる例もあるが、本コインにはそうした兆候はほとんど見られず、意匠の輪郭は清澄なまま保たれている。

本タイプ(ESC-2925)はもともと R2 の稀少性が付されるカテゴリーであり、その中で PF66 に到達した個体はさらに数が限られる。希少な型式のうえに保存状態が重層的に高い水準で保たれている点が、本コインの価値をより際立たせている。鑑定上の評価と実際の視覚的印象がよく一致しており、1848年パターン貨の中でも特に整ったコンディションの一枚であるといえる。

本コインは、ヴィクトリア朝初期における通貨改革の揺れと、象徴表現を再構築しようとする造幣局の試行が一枚の中に凝縮された試作貨である。Royal Cypher を裏面の中心に置く構成は、王権の提示方法を肖像だけに依存しない新しい方向性を示しており、王室標章を記号として扱う英国特有の造形感覚が静かに息づいている。植物文様や四区画構成の扱いにも、19世紀中葉の装飾芸術がのちに辿る流れの前段階がほのかに読み取れ、制度面と美術面が交差する時代の空気を端正にとどめている点が印象深い。

希少性の面では、ESC-2925 に付される R2 の稀少度が示すとおり、現存数自体が多くない型式であり、その中で PF66 に達する個体は限られている。鑑定の評価と実際の保存状態はよく整合し、線刻や打刻の鮮度が試作貨らしい緊張感をそのまま伝えている。こうした性質は、歴史的背景・造形思想・状態の三要素が均衡する稀少な例として、本コインをより際立たせている。

1848年という、正式フローリン導入前夜の試行錯誤期に生まれたこのパターン貨は、単なる制度史の資料にとどまらず、英国貨幣彫刻が記号性と美術性のあいだで何を模索していたのかを語る静かな証言でもある。慎み深い構成の中に、王権・国家・象徴の再編をめぐる当時の思考がほのかに宿り、その内側にある美術的完成度が長く観賞に耐える深さを与えている。

コレクションにおいては、ヴィクトリア期のパターン貨を体系的に見渡す上でも、また英国近代貨幣の造形思想を理解する上でも、ひとつの要となりうる存在である。出現頻度の低さと、意匠・保存状態の調和が揃う点を踏まえると、長期的に静かに保持される価値を備えた一枚といえるだろう。

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