
世界中の富裕層の方々に贈る
唯一無二のmasterpiece
基本情報
発行地:ロンドン造幣局(Tower Hill Mint)
年号:1887年
額面:1ソブリン(Sovereign)
品位:金(Au).9167(22カラット)
重量:約7.98 g
直径:約22 mm
鑑定:NGC PF63 Ultra Cameo
文献:Bull-3854(該当バリエーション記載)、W&R、Bentley Collection Catalog
1887年パターン・プルーフ・ソブリンは、文献上 R6(現存数わずか3〜5枚程度)に分類される極めて稀少なバリエーションです。
本コインは胸飾りが「14連パール」で表現されたジュビリーヘッドに加え、エクセルグ右に B.P. にドットが付く(with stops) を備える識別個体。
いずれもジュビリー導入年における意匠試行と設計過程を示す決定的ディテールです。鑑定は NGC PF63 Ultra Cameo。出品記録では NGC登録における本パターンの最上位(finest at NGC) と明記され、Bentley Collection 由来が付随します。
※なお、文献上のR6分類(現存数わずか3〜5枚程度)という希少性は、本パターン特有の識別点である「14連パール+B.P. with stops」に基づくものです。一方で、NGCのポピュレーションレポートでは「1887年ジュビリー・ヘッド プルーフ・ソブリン」として大枠で集計されており、標準仕様(13連パール、without stops)も同じカテゴリに含まれます。そのため登録枚数は多少多く見えるものの、本パターンに限定すれば文献が示すとおり極めて稀少であることに変わりはありません。
POINT
Bentley Collection(ベントリー・コレクション)は、近代英国金貨ソブリンを体系的に網羅した屈指の名品集成であり、学術的にも市場的にも「基準点」とされる存在です。収集はおよそ34年にわたり、ロンドン造幣局はもちろん、オーストラリアやカナダの各ブランチミントまでを含み、通常発行からプルーフ、稀少なパターンやダイ・バリエーションに至るまで網羅的に収蔵されました。その全貌は、ロンドンの A.H. Baldwin & Sons により2012年から2013年にかけて三部構成でオークションに付されました(Part I, Auction 73/2012年5月、Part II, Auction 76/2012年9月、Part III, Auction 79/2013年5月)。各回の公式カタログは今も参照されており、後に3部を合本したハードカバー版が刊行されるなど、今日ではソブリン研究の標準的資料として位置づけられています。
ベントリー・カタログの特徴は、英国的に保守的なグレーディング、Spink・Bull・Hill・W&R などの主要文献との丁寧な照合、そして来歴(provenance)の詳細な記録にあります。こうした精緻な整理により、ソブリンのバリエーション研究やダイスタディにおける不可欠の基準点となっています。特に 1819年ソブリンなど、歴史的に最も希少とされる個体も含まれており、発表当時には大きな話題を呼びました。今回の1887年パターン・プルーフ・ソブリン(胸飾り14連パール、エクセルグ B.P. with stops、NGC PF63 Ultra Cameo)は、この Bentley Collection Part III(2013年、Baldwin Auction 79, Lot 1228)に収められていた由緒ある一枚です。文献上は R6 に分類される極稀少バリエーションであり、ジュビリー導入期における意匠試行を示す標本的存在です。さらに、2001年の Spink Numismatic Circular における報告以来、市場と学術双方で独立した識別バリエーションとして扱われ、ベントリー由来の来歴と相まって、信頼性と価値を強固に裏づけています。
すなわち、Bentley Collection とは単なる著名コレクションではなく、ソブリン研究と収集史の両面で「基準」を提供する存在であり、本コインはその中でも特に意義深い一枚として今日まで伝わっているのです。
表面(オブバース)— ジュビリーヘッドの造形と鑑賞ポイント
肖像はジョゼフ・エドガー・ベームによるジュビリーヘッド。小冠を戴いた横顔は威厳と気品を両立させ、ヴェールの垂れと髪の境界が柔らかな面の変化で繋がっています。ティアラの粒状の宝飾、耳飾り、胸飾りの細密な陰影はプルーフの深い打刻だからこそ映える部分で、拡大しても粒の輪郭が崩れず立っています。
当個体の識別点である胸飾りは、連なるパールが「14連」で表現されたパターン。丸珠の一つひとつに微妙なハイライトが立ち、列の整い具合が良好です。量産型で見られる設計と異なる数・配置で仕立てられており、本パターンを特定する最重要ディテールとなります。
ヴェールの生地表現は、織りの細い「点の連なり」が規則的に刻まれ、襞の掛かり方に沿って光沢のグラデーションが出ます。肩口のブローチや章飾は、中央モチーフと八放のスター状の光条まで明確で、フロストの乗りが均一です。
トランケーションには J.E.B. のイニシャルが読み取れ、銘文は VICTORIA D: G: BRITT: REG: F: D:. 外周のビーディングは珠径が揃い、リムとの間隔も均等で、打刻圧の行き届きを示します。鏡面フィールドは深い反射を保ちつつもダイ研磨痕の乱れが少なく、肖像側のマットとの対比が強いため、Ultra Cameoの評価にふさわしい明暗差が得られています。
裏面(リバース)— 聖ジョージ図像とパターン識別
裏面はベネデット・ピストルッチの「聖ジョージとドラゴン」。跳躍する馬体の筋肉の起伏、腹部から後肢にかけての面の張り、マントのはためきの折返しまで、面の切り替えが鋭く、彫面のフロストがしっかり乗っています。剣先や馬の鬣、聖ジョージの兜の稜線もダレが少なく、プルーフ用の鮮鋭なダイが使われたことが窺えます。
地面のエクセルグ右端には B.P. のイニシャルが入り、本個体は両字にドットが付く「with stops」タイプ。イニシャルの点の形が丸く整い、打ち足らずや潰れが見られない点は好材料です。年号 1887 は縦画の肩が立ち、内側の膨らみが均一。数字の外周と地の鏡面との境界がシャープなため、視覚的なコントラストが際立ちます。ドラゴンの鱗や翼膜の筋、爪先の尖りは摩耗の影響を受けやすい細部ですが、本個体では鱗の並びが規則的に残り、爪の先端も丸みを帯びずに締まっています。外周ビーディングとリムの立ちも整っており、縁のミル(reeded edge)と相まって全周のフレーム感が引き締まっています。
総じて、裏面はフロストの面積が広い図像に対してフィールドの鏡面が深く、聖ジョージとドラゴンが背景から浮き上がるように見えるため、鑑賞時の立体感が強いのが特徴です。
歴史的背景
1887年はヴィクトリア女王在位50周年の節目で、ジョゼフ・エドガー・ベームが設計した新肖像「ジュビリー・ヘッド」が正式導入された年です。ジュビリー年に合わせて金銀貨の意匠一新が進み、表面に小冠を戴く女王像、裏面にピストルッチの聖ジョージが組み合わされました。導入後、この小冠は賛否を呼び、のちに「オールド・ヘッド」(1893年~)へ更新される流れにつながります。こうした刷新の過程では、導入前後に試作打ちやパターンが複数回にわたり作られています。
造幣局内部では、肖像や銘文間隔、トランケーションのイニシャル表記など細部の最適解を探るため、試験打ち(パターン)が段階的に実施されました。ワイオン一門のレナード・C・ワイオンがダイ製作に関与し、1880年代前半から1887年導入に至るまで、複数年にわたってパターン打刻が行われた記録が残ります(のちに実際の流通設計で修正・調整)。この文脈で「第一レジェンド(D:Gが冠に近い配置)」や、J.E.B.のJが角度を持つ「angled J」など、細部仕様の検討痕が読み取れます。
本ロットに関連する14連パールのジュビリーヘッドは、標準の1887年プルーフ/通用型が13連パールであるのに対し、珠数そのものが異なる試行仕様です。英国の過去出品記録でも「標準は13、当パターンは14」と明示され、J.E.B.の位置関係やレジェンドの詰まり具合など、意匠上の相違点が複合して観察されます。14連は2001年に専門家によって報告例が示され、以後、文献・市場で独立した識別バリエーションとして扱われてきました。
裏面の聖ジョージ図では、ピストルッチのイニシャル B.P. の前後に小点を打つ「with stops」と、点を欠く「without stops」があり、1887年の試作期には両タイプが並存します。同一セールでも with stops(本ロット)と without stops(別ロット)が並列提示され、さらに日付「7」の製作上の特徴(flawed 7)や、B P の字間(spaced B P)といったダイ個性の連関も指摘されています。こうした差異は、設計・製作段階での試行錯誤が実物に刻まれた一次証拠として重要です。
打刻地はロンドン(タワーヒル)で、一般頒布を想定しない特製打ちとして極少数が作られました。14連パールかつ B.P. with stops の組み合わせは、まさにジュビリー導入期の設計検討を映す標本的パターンで、のちの量産仕様では見られないディテールの集合体です。
本個体は名高いベントリー・コレクション由来として案内され、同時代資料と市場記録の両面から位置づけが明確です。R6表記を伴うパターンとして提示されており、ジュビリー年の造幣設計の変遷を語るうえで、学術的・資料的価値の高い指標個体といえます。
市場評価と希少性
本ロットは、文献およびオークション表記においてR6に分類される極稀少パターンであり、ジュビリーヘッド期ソブリンの中でも識別点(14連パールの胸飾り、B.P. with stops)が明確なことから、体系的収集における指名性の高いバリエーションといえます。PF63 Ultra Cameoという上位グレードは、視覚的なコントラストの強さを保証し、コレクターにとって鑑定基準と美観の両立を意味します。さらにベントリー・コレクション由来という来歴が加わることで、過去の市場取引履歴が明瞭となり、信頼性と価値の裏付けが一層強化されています。
1887年のパターン群は通常流通用に頒布されず、造幣局内部や王室贈答のために限られた数のみ打刻されたと推測されます。そのため今日に伝わる実例は非常に少なく、国際市場でも出現頻度はきわめて低い部類に属します。こうした背景から、本コインは単なる稀少アイテムにとどまらず、ジュビリー導入期の意匠史と技術史を体現する資料価値を兼ね備えた、上級ターゲットとして世界的な注目を集めています。
本コインは、胸飾り14連パールのジュビリーヘッドと B.P. with stops を併せ持つ1887年のパターン・ソブリンとして、ジュビリー導入年の設計検討を可視化する一次資料です。標準的な13連パール仕様とは根本の造形設計が異なり、連珠数・宝飾の配列・レジェンド取り回し・トランケーションの処理など、意匠決定プロセスの痕跡が読み取れます。鑑定はPF63 Ultra Cameoで、深い鏡面と濃いフロストによる強いコントラストが展示映えを約束します。さらに、R6級の稀少性に加えて名門ベントリー・コレクション由来という来歴を備え、学術的裏付けと収集史の重みを兼ね備えています。
コレクション上の価値としては、ジュビリー期のパターン群を俯瞰する際のアンカー(中核標本)となり得る一点であり、同年の13連パールや without stops など他仕様と並置した比較展示・研究においても高い有用性を発揮します。識別点が明快で帰属が容易なため、類例検証やダイスタディの出発点に適し、解説文や図録制作でも説得力のあるリードピースになります。加えて、ピストルッチとベームという二大彫刻家の語りを一枚で完結できる点は、教育的・物語的価値の面でも優れています。
保存・運用の観点では、プルーフ特有のミラーフィールドが微細なヘアラインを拾いやすいため、スラブ状態のまま低湿度・低粉塵・直射日光回避の環境で保管するのが理想的です。撮影や展示では斜光を用いるとカメオ効果が最大化され、14連パールと B.P. with stops の識別点が視覚的にも強調されます。総じて、本コインはヴィクトリア期黄金芸術の到達点を伝えると同時に、その裏にある設計思想と造幣技術の推移を語ることのできる、コレクションの中核にふさわしい稀少・高品位のパターンです。